男性は夢で長い廊下にいた。周辺の雰囲気から察するにそこは病院の廊下のようだった。
固い革靴の足音を廊下中に響かせ、数日前に火傷をした影響で痛む左足の太ももを気遣いながらぎこちなく男性は歩いている。病院なのに靴を履いていてはおかしい。そんな感覚が男性にはまるでなかった。
果てしなく長い廊下の両端には待機席が並んでおり、そこへ包帯に覆われた患者がずらりと座っていた。
腕や足、顔など身体のあちこちに包帯を巻いた怪異たちは、いずれもそれが勲章であるかのように誇らしげな顔で笑っている。
(なぜ嬉しそうにしているんだ?)
男性はただそれが疑問だった。この廊下の果てに行けば、その答えがわかるかもしれない。男性は直感を頼りに廊下の終わりを目指して少し足を早めた。
相変わらず両側には大勢の患者が並び、じっと座って何かを待っている。その顔はやはり誰もが明るげで、くもった表情をした者は誰一人としていない。
謎はますます深まっていく。今日は診察の割引でもやっているのだろうか。そうして考えを巡らせながら進んでいるうちに男性は廊下の行き止まりに辿り着いた。
廊下の突き当たりのすぐそばには手術室があり、「手術中」の表示灯が光っていた。そこから何かを焼いているかのような不穏な音が鳴っている。それと同時に患者の叫び声が漏れて聞こえてくるが、この声さえも若干の笑い声を含んでいるように聞こえた。男性は診察室の最も近くに座る、目の上に包帯をした怪異に声をかけた。
男性「おい、なんだここ。何してんだよお前らは。」
すると怪異は、まるでその質問を待ち望んでいたかのように活き活きとした口調で話し始めた。
怪異「ついに、ついに!新しくしてもらえるんだ。お、俺の醜い眉を!」
しかし、怪異のひたいには既に包帯が巻かれている。これは一体どういうことなのか。男性は理解ができなかった。
男性「まだ手術してないんだろ?もう包帯してるのはどういうことだ。」
怪異「ここの医者は怪我をしていない限り、何を言っても診てくれない…だから自分で眉を傷つけたんだ。」
よく見ると待機席の近くには等間隔で包丁と包帯が用意されている。
男性「こんなの………狂ってる。」
その時、光っていた表示灯が消えた。手術が終わったのだろうか。そう思っていると、手術室から眼鏡をかけた怪しげな執刀医が姿を現した。
執刀医「はい次、始めるぞ。入れ。」
執刀医はぶっきらぼうに言った。
そしてようやく男性の存在に気がついた。
執刀医「お前は足か。よし。」
そう言うと数人の執刀医は男性の腕を掴んで持ち上げ、手術室の中へ入らせ、手術台へと座らせた。
男性「おいちょっと待て!違う俺はここの」
執刀医「ごちゃごちゃ言わずに手術台に寝ろ!今日は特に混んでるんだ。」
執刀医は男性の言い分も聞かず、鉛筆ほどの太さの注射針を男性の足に突き当てた。
男性「おい待て!よせ!やめろおおおお!」
気がつけば手術は終わっていた。起き上がって自分の足を見ると、左足だけが不自然に若々しく筋肉質なものに変わっていた。
夢はここで終わった。
それ以降、ケガビトの目撃情報は確認されていない。