ホワイトは様々なシチュエーションで夢に現れる怪異である。その特徴は夢によって様々だが、一致しているのは全身が白く、宇宙人のような容姿をしているという点だ。今回はその中でも特徴的な夢を紹介する。
四十代の男性は夢の中で、妻と二人の娘を連れ、穏やかな山道を登っていた。澄んだ空気の中、家族で会話を交わしながらの登山は心地よい。やがて歩き疲れた一行は、登山道脇に横たわる大きな倒木に腰を下ろし、しばし休憩をとることにした。
その時、下の娘が突然声を上げた。
「パパー、見てー。宇宙船があるよー。」
冗談だろうと思いながら娘の指さす方を見ると、確かにそこには奇妙な物体があった。横倒しになった大型の冷蔵庫のような無機質な機体。表面は鈍く光り、不規則な位置に大小さまざまな窓が埋め込まれている。山中にはあまりにも不釣り合いな存在だった。
あの内部はどうなっているのだろう。宇宙人がいるのか、それとも未来から来た何かが乗っているのか。想像が膨らむほど、男性の胸の奥で好奇心が静かに、しかし確実に強まっていく。
「パパ、ちょっと様子見てくるね。」
そう言って振り返ると家族の姿は、なぜか忽然と消えていた。足元に置いたはずのリュックや帽子もない。そんなことはどうでもいい。早くあの機体の中に入ろう。男性の頭の中は家族よりも宇宙船のことでいっぱいだった。
男性はためらうことなく機体へ近づく。金属の外壁に手を触れた瞬間、内部から低い駆動音のようなものが響き、機体の継ぎ目から強い風が噴き出した。続いて側面が左右に割れ、内部へと続く細い通路が現れる。
なぜか靴を脱いだほうがいい気がして、男性は登山靴をそろえてから中へ足を踏み入れた。
通路の両側には、ネットカフェの個室を思わせる小部屋が整然と並んでいる。それぞれの扉の中央にはインターホンのような丸いボタンがひとつ設置され、その下には覗き窓がついていた。
好奇心に駆られ、小窓から中を覗く。そこには、異様なほど体格の大きい、全身に濃い体毛を生やした男が横たわり、壁に埋め込まれたモニターのような装置を眺めていた。圧迫感のある体躯。もし襲われればひとたまりもないだろう。男性は息を殺し、そっと顔を引く。
その瞬間だった。
通路の奥から、全身が白く滑らかな皮膚に覆われた奇妙な怪異が現れる。
「キュアアアアアア!!!」
甲高い叫び声を上げながら、怪異は男性を一瞥することもなく、素早い動きで扉のボタンを次々と押していく。そして何事もなかったかのように通路の奥へ消えた。
直後、各部屋から激しい衝撃音が響き渡る。内側から扉を叩く音。金属が軋む不気味な振動。先ほど覗いた巨体の男たちが一斉に怒りをあらわにしているのは明らかだった。
まずい。
男性は出口を探そうと振り返る。しかし、どこから入ってきたのか思い出せない。焦りで視界が狭まる。軋む音はさらに激しくなり、いまにも扉が破られそうだ。
そのとき、ひとつだけ静かな扉があることに気づく。他の部屋と違い、まったく揺れていない。中を確かめる余裕はない。男性は覚悟を決め、その扉を開けて中へ飛び込んだ。
部屋の中には誰もいなかった。畳が敷かれた和室のような空間で、古びた棚や机が無造作に積み重なっている。倉庫のような場所らしい。身を潜めるには都合がよかった。
やがて外から、扉が破壊される轟音が響く。怒号が通路を満たし、しばらくしてようやく静まり返った。
今のうちに出口を探そう――そう思った矢先、床がわずかに傾く。続いて、重力が変わったかのような感覚。宇宙船が浮上しているのだ。
このままでは帰れなくなってしまう。男性は窓に駆け寄り、力を込めてこじ開けようとする。しかし窓枠はびくともしない。機体は凄まじい速度で上昇し、やがて地球が遠ざかっていくのが見えた。あっという間に大気圏を抜け、視界は無数の星に満たされる。
「残念だったね。もう手遅れだよ。」
背後から、乾いた声がした。
振り返ると、誰もいないと思っていた部屋の机の下に、痩せ細り、白い髭を長く伸ばした老人が横たわっている。
「あーあ。なーんで入ってきちゃうかな。ほんと。」
老人は諦めにも似た口調で呟く。その言葉には、この状況をすべて知っている者の響きがあった。
窓の外には、果てしない星の海が広がっている。
これから自分はどこへ連れていかれるのか。
男性はただ立ち尽くし、迫り来る未知の未来に、静かな不安を覚えていた。
ここで夢は終わっている。
怪異は現在も不定期で出現中。