ノエケ(仮名)は夢の中で、夜更けに砂嵐の中を一人で歩いていた。荒れ狂う嵐に混じる砂の粒は辺りを白く霞ませる一方、頬や腕に鋭く直撃し肌がゆい感覚を覚えさせた。
ここはどこなのか。辺りに何かないのか。何もかも全く見当がつかなかった。少しでも何か見つけられないかと気を利かせて右へ左へと複雑に動き回ってみるが、その努力も虚しく、景色は一向に変わらない。
そう思っていた時だ。奥の方へ人影のようなものを確認できた。ノエケは砂嵐に負けじと必死に顔を守りながらそこへ駆け寄った。
人影の目の前まで到達したノエケは、その正体が中年ほどの男だということを知った。その男は砂嵐にも動じず、銅像のようにただじっと立ち竦んでいる。ノエケはそんな男を気味悪く感じたが、勇気を持って話しかけてみることにした。
ノエケ「ここはどこか、わかりますか?」
男「………。」
ノエケ「ここで、何をしているんですか?」
男「………………。」
男は沈黙を貫いている。しかし、他に残された選択肢がないノエケは、その後も同じような質問を淡々と男に聞き続けた。
やがて日は明け、砂嵐も落ち着き始めた。すると男はおもむろに顔を上げ、空を見上げると初めて声を出した。
男「………………6019回目。お…おめでとう。」
ノエケにはその言葉の意味はわからない。しかし、その言葉に込められた意味の重さはなんとなく理解できたような気がした。男はそれだけ言うと、再び動きも話しもしなくなった。
砂嵐がおさまり日が明けた辺り一帯は、見違えるように見晴らしが良くなった。そこには砂漠のように砂が一面に広がっており、少し奥には青く煌めく美しい泉が見えた。また、男と同じようにして立ちずさむ人の姿も遠くに何人か確認できた。
ノエケは泉の前へ行き、中を覗きこんだ。透き通った泉の中には小型のヘリコプターらしきものが沈んでいる。もしあれを取り出すことができれば…ノエケは苦渋を嘗める思いだった。
沈んだヘリコプターをただ見つめるまま、時間は過ぎていく。ノエケは、このヘリコプターの利用価値をどうしても諦めたくなかったのだ。
陸地からヘリコプターまでの距離は10mほど。底まで潜れば何とか引っ張ってこれるかもしれない。それにこんなに綺麗な泉だ。入っても安全に違いない。そう考え始めたノエケは、とうとう泉の中へ入ることを決める。
服を脱いで泉に入るための準備をしていると突如、正体不明の声が聞こえ始める。
「5……4……」
ここでノエケは目を覚ました。
この夢以降、男は現れていない。