男性の夢には、昔からある人物が現れる。その人物は中年の女の見た目をしていて、夢に現れては鋭い目つきで男性を叱る。その振る舞いは母親そのものだが、現実には男性は幼くして母親をなくしており、本当の母親については、顔すら覚えていなかった。
夢の中に現れる女は、まるで本当の母親のようにいつも口うるさく強い口調で男性を叱りつける。
「この怠け者。いつまでもだらしないでいるんじゃないよ。」
「不摂生な生活はやめなさいと何度言ったらわかるんだい。」
あまりにもしつこく現れ、その度に長々と説教をするため、男性は女の出現をストレスに感じていた。
男性「まったく…余計なお世話だよ。」
そんなある日の晩のこと、男性は夢で大きな黒い塊のようなものに出会った。今までに出会ったことがないほどに不気味で大きな見た目をした塊は、男性を取り込もうとぐんぐんとこちらへ迫りくる。その塊はただ黒いだけでなく、どこか不快で恐ろしく、男性は本能的に巻き込まれてはいけないものだということを悟っていた。
黒い塊はさらに大きく成長していき、夢という空間自体をも包み始める。恐ろしいが、男性にはどうする事もできない。少しずつ体が熱くなり、全身が痛み始めた時、あの女が現れる。
「……下がってなさい。」
女はそう言って男性を庇うように前へ立つ。巨大化した黒い塊は、標的を男性から女へ変え、女を飲み込んだ。黒い塊によって飲み込まれた女の全身は次第に赤黒く変わり始めた。やがて女の肉体は煮えたぎるような赤色に光り、ドロドロと溶け始める。
「何を…してるの。早く…逃げなさ…い。」
その言葉ではっとした男性は、思い出したかのように塊から逃げた。男性は逃げている最中、苦しげにもだえる女を不敵な笑みで見つめる、怪しい人物の姿を目撃した。
夢はそこで終わった。
それ以来、女は一切姿を見せなくなった。