ゴニス(仮名)は夢の中で悩んでいた。なぜならゴニス一家の暮らす村はギャングによってこれまでに何度も襲撃に遭い、数え切れないほどの知り合いを亡くしていたからだ。
また、ギャングに身ぐるみをはがされたゴニス家は生活も貧しく、限界も近かった。そんな中、物知りな長老から興味深い話を持ちかけられる。
「ギャングの連中は贅沢な武器をたくさん持っていやがる。並大抵の人間では、奴らの勢力には敵わんじゃろう。そこでだ。西の外れに、あの保安官も拘束を断念した異能の悪党、ハントという男がいるんじゃ。奴は気分屋で、迂闊に近寄るのは危険とされてきた。だがこの状況、変えられる可能性のあるのは奴しかおらん。ゴニス、説得を頼めんか。」
ゴニスは一瞬ためらった。だが、このまま朽ち果てる村を黙って見届けるわけにもいかない。
ゴニス「長老。その男…ハントはどこにいるんです。」
長老「噂では奴は今、オエル山の麓でひっそりと暮らしているらしい。そこを探すんじゃ。」
そう言うと長老はゴニスに手書きの地図を手渡した。ゴニスは地図を頼りに男の元へと向かった。
獣道をしばらく進み、地図の示している場所へと着くと、そこには一軒の小さな山小屋が建っていた。ゴニスは念の為に警戒しつつ、ドアを2回ノックした。
ゴニス「すみません、えっとそのー。相談が…。」
間もなくして、中から声が聞こえた。
「…開いてる。入ってこい。」
ゴニスは恐る恐る小屋の中へ入った。簡素な部屋には西部劇から出てきたのを疑うほどの、歴としたカウボーイが椅子に腰掛け、タバコをふかしている。沈黙の中、小屋は張りつめた空気に包まれていた。タバコをもう一吸いした後、男は一点を見つめたまま口を開いた。
ハント「小僧、ここは餓鬼が暇つぶしに来るような生易しい場所じゃねえぞ。」
男は吸い殻を乱暴にテーブルへ押し付けて消した。
ゴニス「村がギャングに荒らされて誰も太刀打ちできなくて……どうにか助けてもらえないでしょうか。」
ゴニスは必死な思いで男にうったえた。
ハント「俺はお前を助ける義理は無え。宝石の1つでもあるなら、話は別だがな。」
ゴニス「ギャングに全部奪われて…今あげられるものは…何もありません。」
ハント「じゃあ無理だな。早いとこ帰ってくれ。俺は眠いんだ。」
ゴニス「……じゃあせめて…俺に銃を1つ、貸してもらえませんか…?」
その一言を境に、無気力そうだった男の表情が鋭く一変した。
ハント「お前…正気か?あの連中、100人以上はいるぞ。それに餓鬼のお前が立ち向かえるような腕じゃない。」
ゴニス「わかってます。最悪俺はどうなってもいいんです。あいつらを1人でも減らせればそれで…」
その言葉を聞いたハントは静かに立ち上がると、埃の被った引き出しから1丁の拳銃と弾箱を取り出してゴニスの足元に放り投げた。
ハント「……ちょっと古いけどそいつを使え。銃の使い方は、わかるな?」
ゴニス「はい…!」
ハント「いいか、撃つ時は足元を狙え。撃ち慣れて無えやつが頭仕留めんのは無理だ。」
ゴニス「…わかりました…!」
こうしてゴニスは、男に借りた武器を手に村へと戻ってきた。そしてそこで目にしたのは、変わり果てた姿で床に横たわる長老だった。
ゴニス「そんな……。」
唖然としているゴニスの後ろから、憎ましい声が耳に入ってきた。
「よおゴニス、カウボーイごっこかい??」
振り返ると、10人ほどのギャングがゴニスを囲って笑っている。ゴニスは迷わず銃を構え、引き金を引いた。
ギャングの1人が悲鳴をあげながら太腿を抱えて倒れた。二発、三発と容赦なく撃ち込むゴニス。ギャングは三人、四人と倒れていった。しかし、弾倉が空になるとリロードはもたつき、先の勢いは途切れてしまった。
ギャング「おいテメエ、やってくれたな。」
激怒したギャングは、ゴニスが手に持つ銃を撃ち飛ばした。
撃ち飛ばされた銃とともに、右手からは鮮やかな赤い血が滴り落ちた。
ゴニス「クソッ…!あああっ…!」
右手はみるみるうちに赤く染まっていく。ゴニスは左手で銃弾をセットしようと試みる。だが、うまいこと手が動かない。その時だった。村一帯に大きな銃声が響き渡った。そしてその直後には、六人のギャングが一斉に崩れ落ちた。
「邪魔だ、クズ野郎。」
銃声の先に立っていたのは、ハントだった。騒ぎを嗅ぎつけ、ギャングが次々と村に集まり始めた。
ハント「よく見とけ小僧。これが落ちるところまで落ちた人間の運命(さだめ)だ。」
そう言うと男は、たった一つのハンドガンを手に大勢のギャングを迎え撃つ。建物の影や屋根の上、路地の奥からも銃口が覗き、数十人規模の銃撃が一斉に火を吹いた。
乾いた連射音と共に、無数の弾丸が男を包囲する。だが彼は微動だにせず、次の瞬間には身を翻して石壁の陰に滑り込み、跳弾を利用するかのように正確な弾を撃ち込んだ。一人、また一人と、ギャングは倒れてゆく。
一人のギャングが後方から背後を狙ったが、男は気配だけで察知し、振り返るより早く手首をひねって後ろに一発。命中は当然のように正確だった。
銃弾は容赦なく飛び交っていたが、彼の動きは風のように滑らかで、まるで弾丸の軌道が最初から読めているかのようにすべてをかわしてゆく。その速さと正確さは、誰の目にももはや人間の域を超えていた。
次々に仲間が倒れる様子に、ギャングたちの顔が青ざめていく。やがて地面に転がる人と硝煙の匂いに耐えられなくなった者たちが、恐怖に駆られて銃を捨て、村の外へと逃げ出した。銃撃戦はこうして幕を下ろした。
ハント「あー、また目立っちまった。」
ゴニス「なんで報酬もないのに…助けてくれたんですか?」
ハント「……小僧、ゴニスと言うのか。」
ゴニス「…はい。」
ハント「その銃、お前にくれてやる。もっと腕を上げたら俺のところへ来い。相手してやる。」
そう言って男は山の麓へと帰っていった。夢はここで終わった。