池野(仮名)は夢の中で、
奇妙な人物に二回遭遇している。
1回目
池野は夢の中で家事・育児に追われていた。
長男に離乳食を食べさせている時に、
洗濯物も干さなければならないことに気づいた
池野は、思わずため息をついた。
「外は曇ってるっぽいし、室内に干すしかないかな。」
池野は重い洗濯カゴを両手で抱えて玄関へ行くと、空模様を確認しようと玄関扉を開けた。外に出ると、辺りはなぜか真夜中のように暗かった。周囲に見える光は、隣接するマンションのダウンライトと、電柱に取り付けられた防犯灯ぐらいだ。
池野は家に戻ろうとしたが、その時、マンションの前に人がいることに気がついた。それが誰かはわからないが、こちらを見ているようにも見える。顔を確認するため、池野はもう少し近づいてみることにする。
「ああァ、幸セ」
篭ったような声も聞こえた。池野はさらにその人物に近づく。そしてとうとう声の正体を目の当たりにした池野は、全身が凍りついた。
そこには歪んだ顔をした見知らぬ女が、枯れた花を片手に持って立っていた。
「貴方ヨリ、私の方ガ、ずっと幸セ。私の、勝チ。」
狂気的に微笑みながら女はそれだけ言うと、跡形もなく消えた。唖然としながら何もなくなったその場所をしばらく見つめていると、今度は警察官二人が現れる。
「こんばんは。騒音で何件か通報が入ったので来たんですが…」
池野はそこで初めて自分が大声を上げて泣いていたことに気づいた。抱えたままの洗濯カゴからは夫と子供たちの服が消えていた。
「あの…私は、幸せですか?」
池野は警察官に聞いた。警察官は警察官は池野を刺激しないように、首をそっと横に振った。ここで目を覚ました。
2回目
池野は夢の中で友人の結婚式場に出ていた。池野は、ずっと結婚式を夢見ていた友人の晴れ舞台に参加できることが嬉しかった。しかし、結婚式というめでたい状況にもかかわらず、会場にいる来場者の殆どは浮かない顔をしている。池野はメイン席でうつむいている友人に声をかけた。
「ねぇちょっとどうしちゃったの?今日は(友人)ちゃんが主役なんだよ?」
友人は瞳から涙を落としながら無理に笑顔を作って言った。
「今日の主役は…あの人になったんだよ…。」
友人が指をさした先にはあの女がいた。薄気味悪い女は友人の代わりにするように新郎に指輪をはめられ、カメラマンに写真を撮られ、来場者に周りを囲われ始めた。だが、この間も誰一人として浮かれた表情をしている者はいなかった。
メイン席にただ一人取り残された友人に池野は声をかけた。
「諦めるしかないね。あと私、もう帰るね。」
友人に背を向け、池野は結婚式場を出た。これで夢は終わっている。
以上、2件の目撃情報を最後に毒女の出現は途絶えている。